秋の到来

 昨日までとは明らかに空気が違っていました。
 夏の終わりを引きずっていたかのような湿ったものではなく、乾いてひんやりと冷たく、深呼吸すると鼻の奥がツンと刺激されるような感じです。
 うっかりと昨日と同じ格好でいたら、寒くて身震いしてしまいそう。
 指先の感覚がちりちりってかじかみ気味なんです。
 夏が終わり、秋の到来を告げる空気でした。
 曇り空でしたが鉛色のどんよりとしたものではなく、やや青みがかった薄い雲に覆われていました。
 青空もいいですが、こんな色の空模様も好きなんですけどね。
 
 今までに何回か経験してきましたが、今日、ここロンドンで知り合った友人が一人日本に帰国します。
 今日はこの友人を見送りにヒースロー空港まで行って来ました。
 こんな日がいつかはくるだろう、ということは考えるまでも無く分かっていました。
 何度経験してもこの寂しさというものにはいまだに慣れることは出来ないものです。
 会うは別れの始め、分かっていたはずなのに、自分のことになるとどうもね。
 
 友人は帰国後すぐに就職活動に入り、面接をしてと自分のしたいことに向けて真っ直ぐに進んでいっています。
 今の人間関係希薄の時代に、まだこんな人がいたのかと思うほど仁義に厚く、芯の通った人でしたから。何処にいても色々な人と直ぐに仲良くなれて、人望ある人でした。
 この友人に私は何度助けられたことか。
 私のロンドン生活はあり得なかったはずですから、この友人無しでは。
 
 寂しい気分を拭えないまま部屋に帰ったきた私が最初に見たのは、部屋のドアにセロテープで止めてあった五円玉でした。
 知らぬ間に友人が貼っておいたのでしょう。
 これってイギリス人のランドロードが見ても何を意味するか絶対分からないでしょうね。
 ウン、又きっと会えるよね。
 そのときまで、Bye-Bye.