実習をしていますと実に様々な生徒さんに出会えます。
 皆、動機やバックグランドは違えど少なからず日本に興味を持ち日本語を勉強したいと思って
来てくださる方達です。
 そういう方との出会いと言うのはなによりもの励みですし力になります。
 皆、日本のことを私とは違う視点で見て時にはこちらの予想しないような質問があったりします。 そういう時に自分がつくづく日本語というものを分かっていないのだなぁと痛感。
 もっと勉強しなくてはと思うのです。
 自分の実習ではなくクラスメイトの実習を参観していた時でした。
 授業の中で『検証する』という言葉を取り上げたのです。
 そしたらある1人の生徒さんからこんな発言がありました。
 
 その人は以前戦争中マレーシアにいたとき日本軍の捕虜になったんだそうです。
 そこで日本人がこの言葉を使っていたのを覚えていると。
 
 日本軍は捕虜となった人を『検証』して、生かす人は何処の収容所へ送るかを決めて
そうでない人は殺したんだと。
 彼の仲間の多くは日本軍の『検証』の結果殺されてしまい、そして彼は生き残ったのだそうです。
 ですから『検証』という言葉を聞くとそのときの事を思い出すと静かにたどたどしくはありましたが語ってくれました。
 その言い方は本当に静かで穏やかで一つ一つ丁寧に語り聞かせるような言い方でした。
 日本語が上手な方だと思っていましたが戦時中に覚えたんだそうです。
 
 教室内が水を打ったように静まり返ってしまいました。
 実習担当していた子は、すみませんでした、と。
 知らなかったとはいえ本当に申し訳ないと思ったのはその子だけではなくクラスにいた全員が
思ったことでしょう。
 
 後ほどその生徒さんがわざわざ気遣って謝りに来てくれました。
 困らせるつもりは無かったんだって。
 
 彼は何度も日本へ旅行しているし、日本語にも興味があって勉強しています。
 そんな辛い過去があったのに。
 私達日本人に笑顔を浮かべてくれる。
 
 想像できないくらいに辛い過去を話してくれたことに。
 そしてなによりもこの生徒さんと出会えた事に感謝しています。

 もっと知るべきことが沢山あるんだなということを実感しました。
 
 本を読むだけでは決して得られないことです。