命の灯 その2

 携帯にかかってきた番号は初めて見る番号。
 出てみると前の学校での友人からでした。
 ま、私に電話してくる人間なんて本当にごく限られていますから。
 数日前にメールが来ていて、先月結婚したとか。
 少し前までロンドンを離れていたのですが、今は戻ってきているとのことで、暇だったら会おう、との事。というのも、以前住んでいたホストマザーに新しく孫が出来たとの事なので。
 
 実は彼女とは以前、同じ家にホームステイしていたこともありました。
 そこのホストマザーは本当に素晴らしい人達で、この人達に出会えなければ、今の私のイギリス生活は有り得なかったのでは??と思うくらいお世話になった人達です。
 本当に、あの家を出て一年経とうとしていますが、それでもいつだって皆のことを鮮やかに思い出すことが出来ます。
 そのホストマザーの息子、ゼインの結婚式にも出席させてもらいましたし。
 因みに、その結婚相手とは以前私の前にホームステイしていて、しかも私と同じ学校に通っていた日本人の女の子。会った瞬間にもうすっかり意気投合です。
 あの闘いを潜り抜けてきたのですから、分かり合えないはずがありません。
 ま、分かり合えなかった人もいるけど…。
 なんともまぁ、こういうのを合縁奇縁とでもいうのでしょうか。
 
 その赤ちゃん、最初は予定日が8月って聞いていました。
 でも、なんとそれよりも6週間早く生まれてきたのだとか。
 産まれて来た時は、体重も2kgちょっとしかなく、今はまだ病院の保育器の中で、母親の方も入院中らしいのです。
 パパになったゼインが今は毎日病院に通っているとのこと。
 
 初めての出産は予定日より遅れるという話は前に聞きましたが、こういうこともあるのですね。
 今も保育器の中で一日一日を懸命に生き、育っているのだなと思うと、不覚にも胸が熱くなります。
 近いうちに赤ちゃんをその腕に抱いたホストマザーに会うことが出来るはず。
 どうか、元気に育って母親の胸に抱かれてくれますように。
 あなたに会えることを楽しみにしている人間がここにもいるのですから。
 まだ名前も知らない、生まれたばかりの、世界の全てのものと繋がっていながら、それでもあなたにしか成り得ないあなたへ。